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電気通信大学 共同研究センターメール No.16 巻頭言

情報通信環境ウィング

共同研究センター長 教授 御子柴 茂生

情報化社会と産業構造の変化

マルチメディア社会の進展とともに、工業情報化社会は次第に情報通信化社会へと、また資源加工型産業は次第に情報通信サービス型産業へととって変わりつつある。すなわち情報そのものが大きな産業に育っていくのである。情報の流れは集中型から分散型へと移行し、これに伴い多種多様な知識と組織の融合する社会が出現する。産業界は従来の同一業種型から情報の流れに添った垂直統合型へと変貌を遂げ、企業組織もピラミッド型から、柔軟な対応が可能なネットワーク型へと変化していくであろう。

大学の対応

このような情報化社会の進展を促進するためには、情報通信関連技術の研究・開発やインフラストラクチャーの構築など、広範囲に亘る方策が必至である。このような状況の中にあって、本学の学科改組案は情報通信研究の重点化が一つのポイントとなっている。
大学の使命には研究、教育、および社会貢献の3つがある。情報通信の分野に関する研究と教育の使命に対しては、学科改組案に従って果たしていくことができるであろう。一方、社会貢献という使命に対しては、共同研究センターが受け持つ。

情報通信環境ウィング構想

平成11年度概算要求に共同研究センターが提出している情報通信環境ウィング構想は、この社会貢献を果たすのが目的である。共同研究のテーマは、情報通信に対する環境汚染問題に重点化する。すなわち情報通信に用いる電子システム等の電磁波ノイズや音響ノイズを定量的に捕え、これらのノイズを低減したシステムや、ノイズの影響を受けにくいシステムを企業と共同で研究・開発するのである。具体的には電磁環境開発、騒音環境開発、環境支援ロボット開発、情報環境システム開発などを取り扱う。これらは本学の高いポテンシャルを生かして共同研究を遂行することのできる分野でもある。
この研究を推進するためには、特別な設備を必要とする。これらは、共同研究センタービルに隣椄して建てる情報通信環境ウィングに収納する。
以下、ウィング内の設備を紹介する。

電磁環境開発室(半電波暗室が付属)

電気用品を使うと電磁波が発生する。たとえばパソコンの近くにラジオを近づけるとザーという雑音が入り、パソコンが確かに電磁波を出していることが分かる。一方、電気回路は、程度の差こそあれアンテナとして働くため、電磁波を受けると回路内に電流が発生する。したがって、たとえば、パソコンの近くに別のパソコンを置くと、一方のパソコンが電磁波を発生し、もうひとつのパソコンに影響を与えるかもしれない。つまり、もうひとつのパソコンの電気回路がアンテナとなり、そのパソコンに不必要な電流が流れて動作を狂わせてしまう可能性がある。
近年、この電磁妨害(EMI)に対する電気用品への規制が厳しくなってきている。また、外部からの電磁波に妨害されにくい特性(イミュニティー)を電気用品に持たせることも大切である。
電磁波放射強度の測定は、半電波暗室で行う。電波暗室は、床も天井も四方の壁も全部、電波を吸収する大きな四角錐を貼り付けた板で囲まれている。一方半電波暗室は、床に電波を吸収する板ではなく、反対に電波を反射する金属板が敷かれている。この方が電気用品の実際の使用環境に近いためである。
1階から3階まで吹き抜けの半電波暗室が、情報通信環境ウィングの大きな割合を占める。幅14m、奥行き20m、高さ8.6mであり、日本電子機械工業会(EIAJ)の定める10mアンテナ法規格に合致する。他に、完全な電波暗室である測定室がある。このような半電波暗室は、民間企業にはかなりの数設置されているが、一般には供されていない。また大学でこのような施設が設置された例はない。従って、企業からの使用の要請は極めて強いと見られる。
この電磁環境開発室で行う共同研究のテーマとして、妨害電磁波測定用アンテナの特性測定法の研究、妨害電磁波発生メカニズムの解明と対策法の研究などがある。

騒音環境開発室(半無響室が付属)

3、4階には、吹き抜けの半無響室を備えた騒音環境開発室がある。無響室とは、外部からの騒音の進入がなく、また内部での音の反響もないように作られた部屋である。コンクリート製の丈夫な壁で囲んで外部騒音を遮断し、また内部の壁には柔らかいガラス繊維による「くさび」と呼ばれる吸音部材を張って音を吸収してしまう。当然天井や床も吸音構造とする。入り口は騒音が侵入しないように、完全に密閉可能でなければならない。このうち、床だけをコンクリートの上にプラスチックタイルを敷きつめるなどの堅い構造としたのが半無響室である。
近年、騒音に対する規制がますます厳しくなりつつあるが、マイクロホン、スピーカ、電話機などの音響機器を初め、大型コンピュータ、ロボット装置、家庭電化製品などの特性や騒音を測定するには、この半無響室が必要である。
自動車会社やコンピュータ会社は巨大な半無響室を所有しているが、大学には例が少ない。どちらかというと基礎研究よりも実用化研究に用いられるためであろう。しかし、共同研究を進めるに際しては不可欠な設備であり、今後他の大学でも設置の要求が増大すると見られる。
半無響室を用いた騒音測定方法については、国際規格(ISO規格)が定められている。本ウィングの半無響室は200立方メートル級の小型のものであるが、ISO規格に準拠した情報機器やロボット装置などの騒音測定に適している。
この騒音環境開発室で行う共同研究のテーマとして、情報、通信装置の騒音低減の研究、ロボット装置の発生騒音の評価方法の研究、騒音制御のための信号処理装置の研究などがある。

環境支援ロボット開発室

4階にある環境支援ロボット開発室では、情報通信機能を備え、また人間にはアクセス困難な環境での作業の遂行をも可能とする人間の形をしたロボットを開発する。21世紀初頭には少子化、高齢化が急速に進行し、深刻な社会問題となることが明らかである。これに対応した人間・機械系の開発、つまり人間の要求する情報をヒューマン・マシン・インタフェースおよび通信系を介して的確に捕らえ、手厚く支援できる環境を実現するのが目的である。
この環境支援ロボット開発室で行う共同研究のテーマとして、ヒューマン・アシスト・システムの開発、ビル内サービス用知能移動ロボットの開発、無人化生産支援用ロボットシステムの開発などがある。
さらに4階には情報環境システム開発室も設ける。ここでは通信とコンピュータを用いた情報ネットワーク環境を開発する。また民間のインターネット活用のための指導などにも用いる。

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