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電気通信大学 共同研究センターメール No.15 巻頭言

国立大学は如何にして生き残るべきか

共同研究センター長 教授 御子柴 茂生

国立大学の危機

少子化が進み学生数が減少する。学生のレベルが低下する。他大学と合併され、教官と事務職員が削減される。学生/教官比が高くなる。担当講義数が増加する。国からの援助や学費が減らされる。研究費も減らされる。
国立大学も、行政改革を始めとする一連の改革を避けて通ることはできない。国家経費有効利用のため、大学の評価は一層厳しくなり、国立大学の存続すら検討されるようになるかもしれない。

研究の多様性に価値を

大学の一つの特徴は、その多様性である。この多様性があるからこそ、研究、教育、社会貢献という3つの大学の使命を果たすことができるのである。企業では10年、20年先にやっと実用化されるような研究は限られる。近年、この傾向はますます進行しつつある。しかし、日本から10年以上先に芽の出るような基礎研究を減らしてはならない。日本経済がますます低迷してしまう。
この長期的研究を担当するのが国立大学である。このような、日本の将来を支える研究のためには、税金による研究費援助が必要である。また大学は、この援助に見合うだけの成果を挙げる必要がある。もちろん、現在の日本経済の活性化のためには、短期的研究も重要である。研究テーマが何れにも偏らないようにバランスを取らねばならない。

大学の経済性にも考慮を

本学元教授のキース・モーガン先生は、教育への投資額が大きい程、後々に得る収入が高いことを示した(1)。図1は年令に対する年収を学歴別にプロットしたもので、高学歴の方が収入を得始める年令は高いが、生涯トータルの収入は多いことを示している。換言すれば、高学歴者の方が仕事の成果を挙げ、その結果社会への貢献が大きいことになる。(高学歴の方が人間として優れていると言っているのではない。経済的効果を言っているのである。)
これから分かるように、学生の教育費を税金で援助すれば、学生本人も社会も利益を得ることができる。大学はこのことを、定量性をもって社会に明示する必要がある。たとえばモーガン先生は一連の論文で教育を投資とみなしたときの「配当」を算出したが、これも一つの方法である。

研究費が欲しい

大学の研究や教育が、長期的に見たとき社会にとって利益をもたらすということが納税者に十分理解されれば、国立大学も生き残ることができるであろう。ただし、依然研究費は削減されるかもしれない。米国のように、大学からは研究費が支給されなくなる可能性も考えられる。この対策を支援するのが、共同研究センターである。
大学は研究費が欲しい。企業は高度の知識を入手したい。両者の要求は、基本的にはマッチングが取れている。何年か前、大学が特定の企業に援助をし、またその企業から研究費を得ることは悪である、と考える風潮があった。しかし、そもそも大学は企業の研究や開発活動を助ける目的でイギリスやドイツに生まれたのである。社会貢献は、むしろ当初の大学の使命であったのである。研究や教育も広義の社会貢献ではあるが、ここで言うのは企業の利益に直接的につながる貢献である。大学は企業と共同研究をして研究費を得、その研究費で自分のやりたい研究をやる。文部省、通産省、大蔵省もこの考え方を支持している。
図2は国立大学が行っている共同研究件数の推移であり、毎年約1割の延びを示している。ちなみに本学における共同研究および奨学寄付受け入れ件数は表1の通りである。未だ十分社会に貢献しているとはいえない。

表1 本学の民間等との共同研究(A+B+C)および奨学寄付受け入れ件数の推移

年度(平成) 2 3 4 5 6 7 8 9
共同研究件数 2 5 14 17 20 21 22 27 28
奨学寄付件数 116 146 169 160 139 149 132 167 148

共同研究と共同開発

共同研究を大学の先生に依頼した経験のある方々から「大学は敷居が高い」とよく言われる。しかしこれは、従来型の大学にとってはむしろ当然であろう。大学の教官は主として論文で評価されるため、成果を学術論文として公表することができないようなテーマにはあまり手を付けたくないためである。
しかし今後もこれで良いのであろうか。ここで考え方を変えて、大学がRegional Center of Excellenceとなってはどうであろう。すなわち、企業で技術的にわからない事が発生したとき、駆け込み寺のように「とにかく電気通信大学に相談してみよう。いつも何とかしてくれる」と言われるような大学になれば、大きな社会的貢献を果たすことができる。この場合、学術論文となる「研究」テーマのみを受け入れるのではなく、新規性はあるが、学術性にはこだわらない「開発」テーマも受け入れることになる。その代償は研究費である。このような社会への貢献は大学の存続を左右するような立派な成果である。したがって教官の評価の対象としては特許出願や外部資金導入なども新たにつけ加えてはどうであろうか。なお学術性も新規性もないテーマは「作業」であり、たとえば学生アルバイトとして紹介することもできる。

「キーワードから探す、研究・技術リスト」

共同研究、あるいは共同開発を始めるには、企業と教官とのマッチメーカーが必要である。共同研究センターでは「キーワードから探す、電気通信大学研究・技術リスト(仮称)」出版の準備を進めている。近々配布されるアンケートに御協力お願いしたい。企業の方が研究・開発を依頼する際、技術的キーワードから該当する教官を探し出すことができる。
このデータは共同研究センターホームページにも掲載する。また関東通産局などを通じて、広域多摩地区の企業に流すことを検討している。さらに、これらのデータを全国の共同研究センターで共有化することも考えられる。これができると、どの企業も近くの大学の共同研究センターを通じていろいろな大学の教官にアクセスすることができるようになる。

設備・装置の有効利用

大学には、実験や分析のための多くの優れた設備や装置がある。これらの機器を民間に供与するのも、大切な社会貢献である。企業としてはこのような機器を購入、維持するのに比べて安価に、かつ短時間に実験を遂行することが出来る。また、利用の際、大学から指導を受けることのできるのも大きなメリットである。この指導は共同開発の一環であるから、共同研究費を戴く。指導を通じて、新たな研究のシーズを見出すことができる可能性も見逃せない。

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