Center for Industrial and Governmental Relations

産学官連携支援部門サイトHOME > ピックアップ > 共同研究センターメール > 電気通信大学 共同研究センターメール No.14 巻頭言

電気通信大学 共同研究センターメール No.14 巻頭言

教官と特許

共同研究センター長 教授 御子柴 茂生

特許取得件数

1件。これは、本学教官が発明をし、その知的所有権を国が保有することとなった特許の、過去4年間の合計である。特許出願件数は、科学技術に関する研究活動の成果を示す1つの指標となる。日本では研究者の36%が大学に在籍しているが、平成6年の国内出願件数35万件中、大学からの出願はわずか129件、0.04%に過ぎない。なお、米国のいくつかの大学は教官の発明で多額の特許収入を得ているが、米国の大学からの米国登録件数は1862件である。これらの数と比べ、本学からの1件という数は随分少ないとご指摘を受けることもある。この理由を考えて見よう。

特許化の手順

発明を権利化し、これを維持・活用するには、次のような手順を経る。

  1. 発明となり得るアイデアの創生
  2. 発明の有効性評価、国内・国外出願の判断
  3. 特許出願明細書の作成
  4. 出願手続きと出願費用支払
  5. 審査請求手続き
  6. 特許係争対策
  7. 特許維持費用支払
  8. 特許活用促進
  9. 特許活用企業との契約

上記項目中、1は教官の任務である。アイデアを探索する心を常に持ち続けることがポイントであろう。しかし2以降は、できればそれぞれの分野の専門家に任せたいところである。2の評価は、最も困難な課題である。特許の有効期間が切れるまでの間、日本や米国なら出願後20年間にその特許が果たして使用されるかどうか、また使用されるとしても、特許出願・維持に要する労力と費用に見合う特許実施料収入があるかどうかの予測をせねばならない。ある意味ではアイデアを生むよりも困難な作業であり、高度の専門知識と正確な技術動向の把握を必要とする。3、6は、通常特許事務所と共同で行う。それ以外の項目は、それぞれ該当する分野の専門家に依頼できるのが好ましい。

教官自身による出願

こうして見ると、教官が単独で特許を申請できないこともないが、大変な時間と費用を費やすことが分かる。貴重な時間と費用を研究に回した方が良いと考える研究者の方が圧倒的に多いであろう。平成9年8月20日の日経新聞夕刊にも、「現行の制度では、国立大学の研究者が取得した特許権は原則、研究者個人に帰属するが、煩雑な手続きや必要な費用は全て個人負担。1つの特許を取得して権利を維持するのに、最低でも160万円程度かかるため、多くの研究者は特許取得の意欲に乏しく、優れた研究成果が埋もれがちだった」と書かれている。

企業からの出願

この特許出願に要する作業と支出を避ける1つの方法は、関連企業と共同で発明し、権利の一部を委譲することを交換条件に、特許出願に関する全ての手続きをやってもらうことである。費用も全て企業に出してもらう。これにより、教官はアイデアの創生のみに力を注ぐことができる。「大学は研究成果を公表したい。企業は秘密を守りたい。ここに矛盾が生じるから、教官と企業の特許活動には無理がある」という考えは誤りである。特許性のある研究は、まず特許出願をした後、学会発表をすれば何の支障も起こらない。

権利の帰属

これまでは、特許の権利が個人に帰属する場合について述べた。しかし実は、これには制限がある。科研費や民間企業からの共同研究費など特定の研究課題の下に生じた発明、あるいは原子炉など国家プロジェクトによる特定研究目的の設備を用いて生じた発明は、国に帰属する。一方、校費や奨学寄付金など一般的研究を課題とした費用により生じた発明は、個人に帰属する。この帰属の判定は、学内の発明委員会が行う。委員会の承認なしに発明を個人の所有とすると国家の財産を私物化したことになり、法に触れるため御注意戴きたい。なお、発明委員会通過特許数は、過去4年間で39件である。この件数は大いに増えねばならない。

国からの出願

国の帰属となる特許は、まず発明者が明細書案を作成し、日本学術振興会が評価、出願手続を行う。出願費用は文部省に申請する。また特許取得をさらに容易にすべく、種々の機関が対策を練っている。通産、文部両省は、特許化代行や特許活用の促進を行う技術移転機関(Technology Licensing Organization)設立を計画中である。東京大学先端科学技術研究センターにも同様な計画がある。
個人取得特許も含めた特許の活用促進・支援は、通産省関東通産局、特許庁、中小企業庁、発明協会などの機関が行っている。科学技術庁の外郭団体である科学技術振興事業団は、特許出願手続き、特許出願、登録、維持費用負担、出願実用化促進などを行い、特許実施料の一部をその経費に当てている。

特許活動による社会への貢献

大学が今後生き残っていくためには、研究や教育に優れた成果を出すと共に、社会への直接的貢献も要求されてきている。特許出願も、この貢献度の評価項目として取り上げられるようになるであろう。

このページのTOPへ